心は焼けない◆稲澤サダ子句集『月日ある夢』
2009年 07月 19日
以下に講座に用いた資料を掲げる。
■稲澤サダ子 明治四十四年十月十日、旭川市に生まれる。青森県立女子師範学校卒。昭和八年に結婚し二男二女の母となるも、夫の急逝により、その実家千葉県に身を寄せて教職。昭和二十四年、旭川に戻り小学校教師。平成十四年二月、子供達が五千余句から四百句余りを選び、母の卒寿記念に句集『月日ある夢』刊。
■句集『月日ある夢』書誌
①書名 「月日ある夢」。
②分類 個人句集(家集)。
③体裁 四六判・洋本仕立て・緑色表紙・全一冊(212頁)。
④編者 作者の子供達(「はじめに」「あとがき」)。
⑤序者 「子を代表して 秀行」(「はじめに」)。
⑥跋者 「サダ子」「義泰」(「あとがき」)。
人間に生まれた以上必ず一度は死にように生まれている。それが人間の姿であることは間違いなく、お釈迦様もそう言っている。死んでも心は焼けない人間の幸をと、仏様はこの世を進めていらっしゃると思う。
仏様と同じ魂(こころ)で死を待とう。それが生きることになると思う。
(平成十三年十二月二十四日 サダ子)
⑦刊記 「印刷所 (有)文成印刷 東京都杉並区方南1-4-1」。
⑧内容(抄)
春
囀や園児の列の過ぎし後
風船をしつかと父の肩車
帯を解き煎茶のうまし花疲れ
リラ冷えの残る朝の庭いぢり
リラ冷えや今日は一日もの言はで
リラ冷えや遇はずもがなの人に遇ひ
花の旅近づく一日遺書を書く
ふらここの空きをり乗つてみたくなる
春愁の思ひ過ごしと庭を掃く
人生を卒業せよと卒壽かな
夏
アカシヤの花の心を胸に挿し
要件はなかなか言はず新茶褒む
薄れゆく実家の記憶青すだれ
羅を折目くずさず幸うすく
一日をただ玫瑰とありし旅
秋
軒先の萩にことづて結びけり
行きしぶる流燈へ送る手波かな
霧笛鳴る千島返せと咽ぶごと
一位の実摘んで少女の日に戻り
星月夜夫の星はすぐ判り
思ふまま咲きし野菊のなほ淋し
お隣の明りも消えて虫の夜に
野に座せば吾も切株とんぼ来る
想ひ出の布もて作る菊枕
露草の露に命の碧さあり
新涼や少し長めのワンピース
白髪や砂利に土下座の墓参り
隣家よりまだ温かき茸飯
もらひたる紅葉を持ちて車椅子
こほろぎのふとなき止みて眠られず
冬
腰紐の紅きをかくし木の葉髪
木の葉髪悔いの一つを梳き流し
落葉焚く息子の背に亡夫の影
内視鏡終へし胃の腑に屠蘇祝ふ
買ふ物もなけれど師走の人混みに