常世へ21―哀悼歌◆江田浩司
2009年 08月 01日
降りしきる雪に古人の貧しさを讃へたまひし師は逝きたまふ
感情の沼に櫻のちりゆけば恩師のことば頰を照らせり
己が身にゆれやまぬ水 文学の質にふれたる師の言の葉は
学問に貫き通す反権威 うす闇をさし傷まみれなる
旅に病む芭蕉を説ける講義かな湖底に棲めるこゑはくれなゐ
温顔に底光りせし反骨の魂はなほ死なず書にあり
紅花とふ俳号を虚子に賜りて風花のごとき俳句をなしぬ
あをぞらを自在に飛べる雪片の浄き墓標をなさむ紅花忌
十七音の宇宙に響く言の葉を清き一掬の水として聴く
北寿老仙をいたみて啼ける雉子なり師の学恩に報はざる身も
―『未来』七月号より転載―