旧事往来◆金閣寺炎上から60年
2009年 12月 27日
「今年の流行語大賞」という賞があって、「政権交代」がそこに含まれているという。交代した政権は誰の目にも一所懸命。その一所懸命のなかに「子どもは社会が育てるもの」という主張があって、子ども手当支給という政策が実現するそうだ。「子どもは社会が育てるもの」という言葉は口当たりがよいが、生まれてこのかた実感のない言葉でもある。よって、今後丁寧に観察していくべき政策だが、この甘言はよもや徴兵制や「生きて虜囚の辱めを受けず」(戦陣訓)という悲しい時代へ戻る布石ではあるまいナ、と不安になる。そうなら子ども手当などゴメン蒙りたいのである。
三島由紀夫さんは少年時代のボクの神様で、文芸誌から切り取った彼の写真を一時期は生徒手帳に入れて持ち歩くほどだった。東京に出た理由の一つは、三島さんに会って、彼の中に岩盤の崩落のように起きていた(ようにボクには思えた)美学の変化について教わることにあったが、彼の住居である馬込と駒込を同じ住所と思い込むほどの田舎者だったから、その機会が得られるはずもなかった。『憂国』以後は次第に読むのが悲しくなっていて、やがてボクは女色を断つように近代文学から離れた。来年七月は金閣寺炎上から六十年である。
心あるごとく凍瀧おし黙る 海 紅