常世へ29―お墓参り
2010年 03月 30日
三郷から高速道に入り、館山自動車道を君津で降りて、山野の道を鹿野山に向かいます。四歳児のために、ときどきトイレ休憩をとります。すなわち人にやさしい旅、こんな点も先生の墓参にお似合いです。
だれかれ打ち合わせるでもなく、供華やお香を持ち寄っていましたので、君津の酒屋さんでカップ一杯のお酒を買えばお供えの用意は完璧です。車窓から山桜の点々とする春の景色がなんともやわらかい。でも一歩外にでると、この四日間ほどすっかり戻ってしまった春の寒さが頬をあかくします。山は限りなく摂氏零度に近いようです。でも、これも墓参の心に叶います。
…… 先生らしい!
蕪村の弟子大魯の墓を連想させるような、まんまるなお墓を見て、女性三人は口々にこう言います。ボクはそれを黙って聞いています。十六日の命日に俳句のお弟子さん達が供えた辛夷でしょうか、茶色に傷んだ花が墓前に残っています。そこを掃除して水をくみ、持参の花を供えて手を合わせました。小学生や四歳児の合掌がつづきます。お花もお香もいっぱいなので、隣の素十の墓も煙らせます。それにしても寒い日です。
……先生は、はやくマザー牧場へ行って、子どもたちを遊ばせてやれと言っているよ。
ボクはこう誘いました。しかし、観覧車もメリーゴーランドも寒いことには変わりありませんでした。
今宵の春月は十三夜です。
笹鳴きと椿の薮と墓二つ 海 紅
弟子の子と椿と墓を明るうす 同
行く春や鞠のやうなる墓遺し 同