この人の一首◆杉本照世『吾亦紅』
2010年 07月 03日
受取拒否すれども消ゆることのなき住基ネットのわが背番号
卒業の朝に小雪の舞ひしこと幾年後に君等語るや
独り住む淋しさなどは言ひもせず友に手をふり別れ来にけり
さらさらと白き骨なりし心厚く八十五年を生きたる人の
……中でも、平成十五年の六月に母を、八月に父をと相次いで見送り一人居となってからの七年は、百年に一度という世界的な大恐慌にのみ込まれた社会の有り様に戸惑い、IT革命とやらの情報システムについてゆかれずに、ただおろおろとする過ぎ行きの日々でした。ふりかえって、何とも暮しがたい日々を支えてくれたのが、短歌を詠むことであり、短歌を通しての人と人との交流でした。(略)
この歌集の上梓を私に思いたたせたもう一つの願いは、老いてゆく両親の傍に在って、自分たちのめんどうをみながら生活を共にしている独り身の娘を後に残してゆくことを、逝くその日まで案じていてくれた両親の思いに応えることでした。
この歌集を両親に捧げます。 ―『吾亦紅』あとがきより―
〔『吾亦紅』〕 杉本照世歌集。平成22年6月刊、渓声出版。

