実家の仏壇に誰かわからない位牌があって、子ども心に不審に思っていたが、尋ねてはいけない気がして、親に聞くこともなかった。やがて母から、生まれてまもなく死んだ男の子の位牌であると教えられた。それまで自分は長男だとばかり思っていたが、厳粛に言えば次男なのであった。私の親不孝は次男の気ままに原因があるのかもしれない。長男の自覚があれば、親や姉妹や弟たちを郷里に置いて、虚業に遊ぶために、ひとり上京などできなかったであろう。この会ったことのない兄が一度だけ夢枕に立ったことがある。今年もまもなく魂迎えだが、ちちははや一番下の弟、そしてたった一人の甥っ子の魂とともに、この兄の魂も迎えたいと思う。
逢ふことのなかりし兄や魂迎へ 海 紅