先日、日高市で講演をした。ひとり帰途につき、夕刻に我が町の駅をおりると、小路から小路へわたる御輿の声が聞こえてくる。それをしばらく聴いていたくなって、駅前の居酒屋へ入って、鮎を焼いてもらった。これが珪藻や川藻を食べた鮎の香りであることよ、などと思っているうちに、ふらり那珂川の上流へでも旅したくなった。むかし、簗で瀬音を聞きながら、串焼きの鮎一尾をコップにいれた燗酒を御馳走になったことがある。京都から新幹線で東京に戻る際に、久富哲雄先生のお弁当がいつも鮎寿司だったことも思い出した。鮎の季はしぼり込めば六月であろうか。とすれば、今年はもう遅い。
鮎宿の雪洞一つ岩の上 近田 柳汀
鮎籠を編むひらひらとぱらぱらと 大岡 杉人
秩父路の一膳めしや鮎をやく 高橋 秀亭