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連句が否定されたことはない◆芭蕉「風流の」歌仙をいまふうに翻案する

 四日の「論文を読む会」の打ち上げで、〈連句は復活するか〉という話題がでた。
 ボクは、〈復活という言葉は一度死んだものが蘇生する際に用いる。とすると、連句は一度も死んではいないのではなかろうか〉と言った。子規による連俳非文学論によって、〈連句に未来はない〉と、まことしやかに言う人は今も少なくないけれど、その人たちで連句を知っている人はあまりいないのではないか。実は子規自身も〈連句のおもしろさを知らずに連句批判をしてしまった〉と、どこかで後悔していた。とすれば、連句は歴史上一度もまともに否定されたことはないといってよいかも。
 さらに続けて言った。いまボクらは連句の愉しみをきちんと知って、いわゆる「俳句」にその愉しみを求め得るかどうかを考える必要がある。ただし、現今おこなわれているように、江戸時代の式目に叶うかどうかを付合の基準にして捌くようでは、なかなか初心におもしろみはわからない。だって、それでは懐古趣味だもの。ボクは連句のおもしろさを学生にわかってもらうために、芭蕉の連句でさえ、いまふうに翻案して教材にしているよ、と言った。出典がわからないので引用しにくいが、千利休は〈茶の湯とは、ただ湯を沸かし、茶をたてて飲むばかりなることと知るべし〉と言ったらしい。これは原初の姿を忘れるなということだろう。とすれば、この冒険の意義は東明雅先生もわかってくれると思う。
 聞いていた何人かが、〈その翻案をみせろ〉と反応した。それで、以下に掲出する。『おくのほそ道』の途中、陸奥の須賀川で巻いた「風流の」歌仙である。余計なことながら、比較参照のために古典本文も附記する。

◆海紅翻案「風流の」歌仙、いまふうに

     福島県須賀川市の
     相楽君の家で

1  めずらしい田植歌を聞いたよ
2  田舎だから、野苺しかなくて
3  岸辺の水をせき止めて、きっと昼寝の石だね
4  魚籠に元気な鰍の泳ぐ音
5  柳が散りはじめて、月も淋しげで
6  総出の屋根葺きが村の風物詩
7  賤の女が、念仏踊一行に茶を摂待して
8  莚に涼んで、楽しそうだね
9  蝉の声に、うつらうつらとしちまった……
10 樟の枝で「あの子に逢いたい」って啼いてるのさ
11 嫁が憎くけりゃ、その畑まで憎い
12 霜の山を仰げば、白髪の人が偲ばれる
13 出陣の酒盛りにこの関所まで来たものよ
14 秋のあわれを和歌に詠んだ僧もいてね
15 夜更けの草庵に鹿が飛び込んだことも
16 御伽の女が泣き伏す空に美しい配所の月
17 今年は花見を断念して寺籠もりです
18 お骨拾いを陽炎が包んでいます
19 雉子の尾のように、長生きすることに
20 芹摘むころは水の冷たき
21 薪を積み出した一本の橇の道が見えて
22 持久戦に入って、冬籠もりする武士ばかり
23 ラブレターを書いたこともない人生だった
24 宮様の愛されて、村の噂になっちゃって
25 彼の手枕に手を入れて、愛し合ったわ
26 なんか、今年の七夕はつまんない
27 転居したら、新しい気持ちで月を眺めてね
28 芒が赤らんで、まるで六条御息所
29 お供えに樒の枝、でも枝振りが気にくわない
30 山深くでツグミの声が時雨れている
31 温泉は淋しく、湯守も寒々とするばかり
32 殺生石の下を走る川音
33 馬上の上人を案内して、花の里はまだ遠くだ
34 まだ寒い春風で、酔いがすっかり醒めちゃった
35 六十歳を過ぎてからだよ、人生の正月は
36 飼屋の棚に春着の小袖がきれいに置かれている


〔「風流の」歌仙〕

     奥州岩瀬郡之内、須か川、
     相楽伊左衛門ニテ

1  風流の初やおくの田植歌     翁
2  覆盆子を折て我まうけ草     等躬
3  水せきて昼寝の石やなほすらん  曽良
4  魚籠に鰍の声生かす也      翁
5  一葉して月に益なき川柳     等
6  雇にやねふく村ぞ秋なる     曽良
7  賤の女が上総念仏に茶を汲て   翁
8  世をたのしやとすずむ敷もの   等
9  有時は蝉にも夢の入ぬらん    曽
10 樟の小枝に恋をへだてゝ     翁
11 恨ては嫁が畑の名もにくし    等
12 霜降山や白髪おもかげ      曽
13 酒盛は軍を送る関に来て     翁
14 秋をしる身とものよみし僧    等
15 更ル夜の壁突破る鹿の角     曽
16 嶋の御伽の泣ふせる月      翁
17 色々の祈を花にこもりゐて    等
18 かなしき骨をつなぐ糸遊     曽
19 山鳥の尾におくとしやむかふらん 翁
20 芹掘ばかり清水つめたき     等
21 薪引雪車一筋の跡有て      曽
22 おのおの武士の冬籠る宿     翁
23 筆とらぬ物ゆゑ恋の世にあはず  等
24 宮にめされしうき名はづかし   曽
25 手枕にほそき肱をさし入れて   翁
26 何やら事のたらぬ七夕      等
27 住かへる宿の柱の月を見よ    曽
28 薄あからむ六条が髪       翁
29 切樒枝うるさゝに撰残し     等
30 太山つぐみの声ぞ時雨るゝ    曽
31 さびしさや湯守も寒くなるまゝに 翁
32 殺生石の下はしる水       等
33 花遠き馬に遊行を導きて     曽
34 酒のまよひのさむる春風     翁
35 六十の後こそ人の正月なれ    等
36 蠶飼する屋に小袖かさなる    曽

        ―曽良「俳諧書留」による
by bashomeeting | 2010-09-06 15:49 | Comments(0)

芭蕉会議、谷地海紅のブログです。但し思索のみちすじを求めるために書き綴られるものであり、必ずしも事実の記録や公表を目的としたものではありません。


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