義仲・芭蕉の墓を訪ふ無迅氏に送る
2011年 03月 06日
琵琶湖の春風に身をゆだねるといふ
無迅氏に
譬ふれば巴御前よ春の水 海紅
ふくふく生れし蕗のたう摘む 千年
牧開くベコのひと跳ねふた跳ねし 海
消息届くつよき筆跡 千
瓦礫また小さな一歩けふの月 海
なべて湖上を越ゆる秋風 無迅
〔略注〕大津の義仲寺は木曽義仲の墓所で、芭蕉も遺言して、同所に埋葬されている。発句はその義仲に随従して、不本意ながらも一人落ちのびた巴御前を詠み上げ、女ながらも、その武勇に秀でた生涯を春の水になぞらえた。無迅氏への餞別句のつもり。脇は春の水の周辺の景色から蕗の薹を摘記して、香気をそえてくれた。そこで、北国の長い冬から解放された牧場へと地域を転じて第三としたところ、四句目はその春の勢いを「つよき筆蹟」と翻訳して無季としてくれた。五句目の月の定座は前句の、力強い消息の一節であるが、このたびの東日本大震災の悲しみが映りすぎているかもしれない。そして、六句目は旅人自身である無迅氏がその旅愁の一景を追加して、発句と呼応する結びとなった。