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新方丈記14◆戦後の終焉

 わが町に農協が営んでいる農産物直売所がある。そこに並ぶ生産者の名札がついた新鮮野菜をときどき買いにゆく。日常のささやかな愉しみである。むろん包装紙などの用意はなく、野菜は支払いをするレジの脇に用意された古新聞にくるんで帰る。それで古新聞を読む愉しみがふえた。
 その日に買ったノラボウ菜をくるんできたのは二月二十日(日)の読売新聞であった。コラム「編集手帳」に目がとまる。内容は、昨今のデフレで大学生への仕送り額は三十年前の水準に戻っているというものであった(全国大学生協連の調査)。三十年前といえばボクが最後の学生生活を送っているころにあたる。
 上京したボクは月額三千円の三畳間に住みついた。ボクは仕送りを望めなかったが、仕送りのある学生も同じ学生アパートにいたから、当時の大学生の多くは似たようなものであったろう。ボクは一週間の食材費を千円と決めて自活をめざした。スーパーマーケットで十個入りの卵パックとキャベツやニンジン、タマネギなど、つまり保存の利くものを買って、三畳間の中に付設されたガス焜炉で料理した。満たされず、空腹で夜中に目が覚めたりするときは、早朝四時まで蒲団の中で堪え忍び、近くの豆腐屋が仕事を始めるのを待って、出来たてで、まだあたたかい豆腐を買いにいったりした。学生の生活は本当にそんな時代に戻っているのだろうか。
 コラムによれば、「昨年の平均月額は4年連続して減少して7万1310円と、1980年代初頭並みだった。5万円未満も4人に1人いた」とある。「食費は1日当たり約783円に減った」ともある。ボクにはずいぶんぜいたくに思える数字だが、物価は比較にならないほど上がっているだろうし、「居住費は30年前の2・7倍に高騰」ともあるから、戦後努力して生活の質を良くしてきた分、逆に今日のデフレの影響は深刻なのだろう。とすれば、生活の質がいまより格段に悪く、エンゲル係数の高かった三十年前の方が暮らしやすかったともいえる。
 二月二十日といえば、東日本大震災の二十日ほど前である。震災のあるなしにかかわらず、戦後という成長は終わっていたのかもしれない。すでに新しい時代が来ていることを感じ取って、わくわくと努力をし直す時期なのかもしれない。
 ちなみに、コラムのサゲの部分には、首相辞任表明直後の鳩山由紀夫氏の発言が使われていた。つまり大学の講演で、米国留学の際に親からもらった仕送り額が〈年間1500億円か、1500万円だったか忘れました。150万円、そんな程度?〉と発言し、〈奨学金の充実に努力していく〉と話を結んだことが揶揄されていた。同じ国に住む人とは、とても思えない。
by bashomeeting | 2011-04-09 09:57 | Comments(0)

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