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新方丈記19◆チカちゃんとの再会

 少し前に話になるが、「俳人になっていたチカちゃん」(Blog海紅山房日誌2010-10-23)との再会を三月十日(木)に果たした。前日の九日に俳人協会の総会があって、翌日は横浜の東戸塚駅近くの東戸塚地区センターで、俳誌『たかんな』の「東京・横浜合同句会」があるという。三十数年ぶりに会うのだから、どんなかたちでもよかったのだが、俳句をたしなむという縁が再会の機会をつくってくれたので、その句会にボクも参加させてもらえるよう、藤木倶子主宰に頼んでもらった。
 当日の午前十一時に上野駅の公園口で待ち合わせて横浜に向かい、東戸塚駅前で軽食を済ませて改札に戻ると、すでにお仲間が集まっていて、みんなで会場まで歩いた。句莚というものには結社を超えて共通するなごやかさがある。みなさんに親しくしてもらって、心地よい一日を過ごすことになった。事前投句の雑詠句会が終わって、懇親会まで時間があることから、藤木主宰の提案で席題句会になった。席題はボクらもやるけれで、「読込」という名称は知らなかった。季題ではなく「立」の一語が出題されて、これを一句に読み込むという趣向であった。はじめてのせいか、これは緊張して思うような句案に及ぶことができなかった。
 誘われるままに、中国料理店での懇親会にも出席。話題の多くはむろん俳句に関わる事柄だが、あいまあいまに故郷から古い友人の近況に話は及び、チカちゃんの八戸での暮らしも聞くことができてよかった。帰途はもう一泊して八戸に戻るという藤木主宰やチカちゃんと一緒で、品川でひとり、新宿でふたりというふうに別れて、池袋についたときはボクひとりであった。
 翌日、東日本大震災と命名された大地震と津波が起こる。午前中の新幹線を利用したチカちゃんの帰宅に影響はなかったが、藤木主宰は新幹線「はやて」の中で地震に遭遇し、車内で恐怖の八時間余りを過ごし、真夜中に高架線路を1キロ歩いて、バスで避難所の体育館に入り、毛布一枚の一夜を明かして、飛行機がとれて無事帰途についたのは十五日の夕方であったという(『たかんな』4月号、編集後記)。

〔附記〕
 この一文をしたためる動機は、先日いただいた俳誌『たかんな』6月号に、この「東京・横浜合同句会」の記事が載ったことにある。またチカちゃんには『デーリー東北新聞』に「ふみづくえ」という連載があり、平成22年12月15日付「句集を出して」という一文の中で、ボクのことにふれている。ずいぶん美化してくれているので恥ずかしいのだが、以下にそれを転載させてもらって、この「俳人になっていたチカちゃん」というテーマに一区切りをつけようと思う。

     句集を出して         吉田千嘉子

 「第一句集は感激の連続よ」と、藤木倶子主宰の言われた通りだった。句集『朳囃子』をお送りした方たちから、多くの激励のお便りをいただいた。新聞に書評も載せていただいた。何より、主宰の序文や、片山由美子さんの栞文には涙が出た。
 北海道の友人からは、嫁した地にしっかり根をおろしたと喜んでくれたが、しかし、故郷のことも忘れずに句に詠んで欲しいと、しっかり言われた。また、小さいときに可愛がってくれた叔父は、「自分は二時間たっても読書感想文が一行も書けなかったことがある。血縁に本を出す人が出るとは…」と、お祝いに胡蝶蘭の鉢を贈ってくれた。
 もうひとつ嬉しかったことがある。三十数年ぶりに、思いがけなく高校の先輩と交流ができたことである。
 今年の夏、毎日新聞に角川学芸出版の『俳句教養講座』という本が紹介された。栞文を書いてくださった、現俳壇のリーダーの一人でもある片山由美子氏が、俳人や研究者と共に、和歌から俳諧、近代俳句という流れをたどる内容である。芭蕉開眼の句と言われる〈古池や蛙飛び込む水の音〉が持つ大きな意味が解き明かされてゆく。そして、片山氏と一緒にこの本の編集をされたお一人に、俳文学者の谷地快一氏の名前があった。
 高校時代、演劇部の友人がいた。体育館の屋根裏にある部室によく遊びに行ったが、そこに居たのが谷地さん。地元に就職し、高文連に出る後輩のための脚本を書き、演技指導に来ていた。私たちが卒業した後、谷地さんは上京されたと聞いた。
 東京での一人暮らしは寂しい。郷里の仲間に会うとほっとする。誰かが上京してきたといっては集まり、たわいの無い時間を過ごすことが、しみじみと嬉しいひとときだった。そんな集まりで再会したのだが、谷地さんはそのとき東洋大学の夜間に通い、昼間は働いていらした。
 後で分かったのだが、親の事業の失敗に一旦は進学を諦めたとのこと。後輩に書いた脚本が評価されたことが、勉学の野心を目覚めさせ、上京の決意をさせたこと、など。今は東洋大学教授となり、芭蕉と蕪村の研究者である。その間、どれだけの苦労や努力をされたことだろう。そのことを思うと頭が下がる。ブログを拝見したが、学術的でありながら、素人にもとても分かりやすい。そしてなんと、俳人でもあり句会の主宰もされている。
 句集をお送りし、電話でお話ししたが、私が俳句をやっていたことに、とても驚き喜んでくださった。謙虚で気さくなところは相変わらず。今度片山由美子さんと三人で会う約束をしたが、とても楽しみである。句集を出して、私はさまざまな贈り物をいただいている。
by bashomeeting | 2011-06-06 17:40 | Comments(0)

芭蕉会議の谷地海紅(快一)のブログです。但し思索のみちすじを求めるために書き綴られるものであり、必ずしも事実の記録や公表を目的としたものではありません。


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