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紹介:谷地元瑛子講演「学び続ける」

 サイト「芭蕉会議」のトップページから「芭蕉会議研究室」に入り、「参考図書室」をのぞくと、谷地元瑛子さんの講演要旨「学び続ける」が掲載されている。今年の6月6日、鎌倉市の清泉女学院高等学校で、女子高一年生を対象に行われたものだが、性別や年齢の枠を超えて熟読の価値あるものと見た。以下は、ボクの心に残った内容を断片的に抽出したものである。

 
 「来年65歳になります。高校一年生だった年からかぞえて50年になるのです! みなさんとの年の差はぴったり50歳です。」「皆さんの前には洋々と、あるいは茫洋と未来がひろがっていることでしょう。50年がうしろにあるわたしと50年が前にあるみなさんの対比はおもしろいですね。」という語り出しが強烈である。自分の過去に迷いのない人でなければ、こうは始められない。

 いつの間にか大学で教える立場になっていたことを紹介して、「幼稚園から高校までは教員免許が無いとだめですが、大学で教えるための免許は存在しません。大学はひたすら運と実力の世界なのです。」という。〈運と実力の世界〉の「運」と言う簡明直截が胸を打つ。

 同じく「皆さんは将来のことをおぼろげに想像することがあるでしょう。ひとつ言えるのは結婚し、母となると,女性は自分の人生をナビゲートしにくくなるということです。男性とはいまだにこの点が違います。」も深い。宿命的な深さがわかりやすく、しかも強く聞く者に響く。

 紹介する詩が適切、つまり万人に届く水準を持つ。彼女の日本語訳を添えて示せば以下の通り。

This is just to say
                     William Carlos Williams

I have eaten
the plums
that were in
the icebox

and which
you were probably
saving
for breakfast

Forgive me
they were delicious
so sweet
and so cold



ちょっと云っておくね
                  ウイリアム カルロス ウイリアムズ

冷蔵庫に
あった
スモモを
食べたよ

多分あなたが
朝食用に
とっておいたー
んだろうな

ごめんね
おいしかった、
甘いし
とっても冷たかったよ

 彼女は語る、「まるでこれは冷蔵庫に貼付けてある書き置きですね。どうしてこれを詩とよべるのでしょう。」そして、「思いがデザインされた勢いのある言葉になっていれば詩です。」と簡明なる定義。脱帽である。
 そして「二人は結婚していて、よく整理された清潔な冷蔵庫を共有していますね。ごめんと言っていますが後悔は特にしていない様子です。言葉少なに書くスタイルは何かに似ていませんか?」と日本の短詩(短歌や俳句)に伏線を敷いて、イマジズムの誕生を説き始める。「19世紀の英語詩はロマンチックにことばを重ねたものが主流でした、頭韻や脚韻を規定通りに踏んで、比喩表現や象徴を駆使、また論理構成にもめくばりして精巧に作ったのです。ところが20世紀の初頭になって、イマジズムという潮流がおこり、もっとシンプルに直接的に短く表現する詩に関心が向いたのです。イマジストたちは当時のジャポニズムの影響もあって、日本の短詩、ハイクに大変深い関心を寄せました。そのなかで一番有名な人がEzra Pound でした。このパウンドの友人が小児科医でもあったWCウイリアムズです。WCWのわかりやすい詩は多くの人に愛されました。」と.

 そしてイマジズムの「言語は伝達の手段である。その言語に能う限りの意味を充電させるためには次の3つの手段がある。」という考え方を紹介し、「1.ものを視覚的想像力に投影させる」「2.ことばの音とリズムとによって感情をうごかす」「3.受取り手の意識のなかに残留している連想を刺激する」という中にジャポニズムを指摘。

すなわち、「実は、日本の文芸である連歌・連句は歴史上の動乱期にさかんになったのです。貴族が典雅なお堂で集うだけでなく、一般の人や旅人が道端の花の下で句をつけあったのです。」「連歌/連句では句と句の間が大切です。行間にことばにならない思いを籠めるのです。ここで前句の作者のこころと次の句の作者のこころが出会うからです。お互いの句の共鳴を味わう境地が動乱や災害におびえる人々のこころを落ち着かせたのだと思います。むすび付けたのだと思います。」「世界の人々に信仰されている宗教の数はいくつあるのかわかりません、キリスト教だけが神様でさえ,父と子と聖霊のあいだに絶えず愛の交流がある、交流なしには神でさえ存在できないと教えている宗教なのです。」「多くの人々が悲しみの涙にくれています、悲しみを受け止めた上で、こころのバランスをとり、勇気をもって一日一日成長してゆく人間でありたいとおもいます。これは年齢に関係ありません。」とも。ここに、人種や言語の壁を越えて、国際連句という未来を歩み続ける基礎哲学が横たわっている。

 ぜひ御一読を……。
Commented by 荻原貴美 at 2011-07-09 23:58 x
谷地元瑛子先生の「学び続ける」を読ませていただきました。涙が出ました。詩や連句が人間の本質と深く関るものだということ。それは避けられないものだということ。・・英語の詩も素晴らしいです。行間に込めた思いが伝わってきます。他の作品も読みたくなりました。
Commented by 山房の海紅 at 2011-07-11 17:32 x
ご感想をお寄せいただきありがとうございます。谷地元さんにお伝えします。よろこんでくれると思います。
by bashomeeting | 2011-07-06 14:52 | Comments(2)

芭蕉会議、谷地海紅のブログです。但し思索のみちすじを求めるために書き綴られるものであり、必ずしも事実の記録や公表を目的としたものではありません。


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