この人の一句◆片山由美子句集『香雨』

枕やや高しと思ふ遠蛙
子猫抱く久しく人の子を抱かず
蝉すでに抜けしを蝉の穴といふ
雲の峰悲しきときは力出て
今日何をせしやと思ふ茶立虫
枯野より枯野の色の羊飼
ぬくもれば何か失せゆく春煖炉
人と会ふつもりなき日の素足かな
香水をえらぶや花を摘むごとく
くちびるはやさしたんぽぽの絮吹けば
湯ざめして眼鏡重たくなりにけり
初花や喉仏なる白き骨
やはらかく胸を打ちたる団扇かな
一葉に子規に妹鳳仙花
待宵や久しく花を活けぬ壺

〔解題〕片山由美子句集『香雨』。書名はコウウと読む。李賀「河南府試十二月楽辞、幷びに閏月」に 四月を次のように詠むところから命名。「暁に涼しく、暮に涼しく、樹は蓋の如し/千山の濃緑雲外に生ず/依微たる香雨、青氛氳たり/膩葉蟠花、曲門を照らす/金塘の閑水、碧漪揺れ/老景沈重にして、驚飛する無く/堕紅残萼、暗に参差たり」。「氛氳」はフンウンで気が盛んなるさま。「膩葉」はジヨウで艶やかな葉。「蟠花」はバンカで群がり咲く花。「碧漪」はヘキイで美しいさざなみ。「参差」はシンシで入りまじるさま、ちぐはぐなさま。意味はおおよそ次の如きか。「夜明け方も、暮れ方も涼しく、樹木は天蓋の如く茂っている/山々の緑は濃く、雲の彼方に向かってのびるようだ/細かく芳しい雨で、樹々の緑の気配が立ちこめる/緑の厚みを帯びた葉や、集まって咲く花の色が曲門を照らしている/美しい堤から眺める閑かな川面には、ざゞ波が揺れて/老木は重々しく、飛び立つ鳥もなく/花びらと萼とが木下闇に入りまじって散り敷いている」。ふらんす堂、平成24年7月刊。
by bashomeeting | 2012-08-12 14:06 | Comments(0)

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