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安易な引用◆隣は何をする人ぞ

 肉親の殺害や、少女誘拐監禁というたぐいの事件をTVで解説して、ある法律学者が〈「隣は何をする人ぞ」というような、近所づきあいのない、無関心な時代〉に問題があると分析していた。「隣は何をする人ぞ」というのだから、たぶん芭蕉の「秋深き隣は何をする人ぞ」という句を念頭に置いてのことだろう。

 しかし、こうした引用はきわめて安易。この句は元禄七年、芭蕉が最後の旅で、大阪に病臥してその床から、翌日に門人宅で行われる予定の俳諧のために送りつけた発句で、句意は〈旅で病に倒れて、見知らぬ町で引きこもっていると、隣家の物音が聞こえる。どんな人がどんな暮らしをしているのか、人恋しく、心細い晩秋だ〉という意味であって、近所づきあいに乏しい社会の説明に役立つ句ではない。法律学者の意味するところとは正反対の心情といってもよいだろう。作者の境涯とともに解釈しなければ誤ってしまう、そういう芭蕉の句の引用はまことに難しいといってよい。

  皆とゐていつも孤りよ草の花    前田  明
by bashomeeting | 2012-09-05 10:57 | Comments(0)

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