この人の一篇◆空蝉 椎名美知子
2012年 09月 24日
埋もれた落ち葉を掃き寄せたら
かびくさい土の匂いがした
庭に
鮮やかな一枚の黄葉が置かれてから
昼も夜も散り積もり
朽ち沈んで
もはや明らかな色も
羽ばたく音もない
かつてこの家の隅々まで
生きていて
庭木の枝先まで血が通っていた
この玄関の格子戸は私が磨いていた
張りのある父の声は下の畑からも届いた
台所からは煮物の匂いと母の声
兄も弟もそれぞれ忙しかった夕暮れ時
水を撒かれた庭の気持ち良かったこと
幻影のように音もない
遠のいた歳月に
冬の薄日が灰色を重ねていく
空蝉の家に
〔解題〕詩誌『沙漠』№268(平成24年9月)所載。 発行者 河野正彦(〒802-0826北九州市小倉南区横代南町3丁目6-12)