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道の日記といふもの◆奥の細道論争――旅立ちの千住――

 目新しいことではないのだがと言って、hiroさんが「奥の細道旅立ちの地はどこか」という25年に及ぶ「千住論争」なるものの存在を教えてくれた。『おくのほそ道』で、舟で隅田川(墨田川)を出発した芭蕉は千住の北岸(足立区)に上ったか、それとも南岸(荒川区)に上ったかという問題のようだ。
 しかし、芭蕉の紀行で旅の事実を書こうとしたものはない。だからこれは『おくのほそ道』や芭蕉の問題である以前に、人文地理学の問題というべきである。今年は芭蕉生誕370年で、没後320年。各地で記念の文化的な企画が進められているが、こうした埒のあかないテーマで社会の関心を集めるのは不毛なことと言うべきだろう。

→そもそも、道の日記といふものは、紀氏・長明・阿仏の尼の、文をふるひ情を尽してより、余はみな俤似かよひて、その糟粕を改むる事あたはず。まして浅智短才の筆に及べくもあらず。その日は雨降り、昼より晴れて、そこに松あり、かしこに何といふ川流れたりなどいふこと、たれたれも言ふべく覚え侍れども、黄奇蘇新のたぐひにあらずばいふことなかれ。されども、その所々の風景心に残り、山館・野亭のくるしき愁ひも、且つは話の種となり、風雲の便りと思ひなして、忘れぬ所々後や先やと書き集め侍るぞ、なほ酔へる者の妄語にひとしく、いねる人の譫言するたぐひに見なして、人また亡聴せよ。(『笈の小文』紀行論)


by bashomeeting | 2014-08-04 14:47 | Comments(0)

芭蕉会議、谷地海紅のブログです。但し思索のみちすじを求めるために書き綴られるものであり、必ずしも事実の記録や公表を目的としたものではありません。


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