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終戦の日に◆長谷川如是閑「戦争絶滅受合法案」

  霊あらば親か妻子のもとに帰る靖国などにゐる筈はなし 市村 宏(『東遊』)

 終戦の日は例年、市村先生のこの歌を思い起こすことにしているのだが、今日は「東京新聞」2014.7.5(土)朝刊から、長谷川如是閑(1875―1969)の「戦争絶滅受合法案」の全文を転記しておこうと思う。月刊誌『我等』(第11巻、第1号)の巻頭言で、昭和4年(1929)1月号所収。転記に際し、原文表記のママを心掛けたが、辞書の都合で通行字体に改めたものもある。なお、原文箇条書き五の「召集後」には、強調する意図で傍点(黒丸)がついている。

     戦争絶滅受合法案
 世界戦争が終つてまだ十年經つか經たぬに、再び世界は戦争の危險に脅かされ、やれ軍縮条約の不戦条約のと、嘘の皮で張つた太鼓を叩き廻つても、既に前触れ小競り合ひは大國、小國の間に盛に行はれてゐる有樣で、世界廣しと雖も、この危險から超然たる國は何處にある? やゝその火の手の風上にあるのはデンマーク位なものだらうといふことである。
 そのデンマークでは、だから常備軍などゝいふ、廢刀令以前の日本武士の尻見たやうなものは全く不必要だといふので、常備軍廢止案が時々議會に提出されるが、常備軍のない國家は、大小を忘れた武士のやうに間のぬけた恰好だとでもいふのか、まだ丸腰になりきらない。
 然るに氣の早いデンマークの江戸ツ子であるところの、フリツツ・ホルムといふコペンハーゲン在住の陸軍大將は、軍人ではあるがデンマーク人なので、この頃『戦争を絶滅させること受合ひの法律案』といふものを起草して、これを各國に配布した。何處の國でもこの法律を採用してこれを勵行したら、何うしたつて戦争は起らないことを、牡丹餠判印で保證すると大將は力んでゐるから、どんな法律かと思へば、次ぎのやうな條文である。
  『戦争行爲の開始後又は宣戦布告の効力の生じたる後、十時間以内に次の處置をとるべきこと。
  即ち左の各項に該當する者を最下級の兵卒として召集し、出來るだけ早くこれを最前線に送り、敵の砲火の下に實戦に從はしむべし。
   一、國家の××。但し△△たると大統領たるとを問はず。尤も男子たること。
   二、國家の××の男性の親族にして十六歳に達せる者。
   三、総理大臣、及び各國務大臣、并に次官。
   四、國民によつて選出されらたる立法部の男性の代議士。但し戦争に反對の投票を爲したる者は之を除く。
   五、キリスト教又は他の寺院の僧正、管長、其他の高僧にして公然戦争に反対せざりし者。
   上記の有資格者は、戦争繼續中、兵卒として召集さるべきものにして、本人の年齡、健康狀態等を斟酌すべからず。但し健康狀態に就ては召集後軍醫の檢査を受けしむべし。
   上記の有資格者の妻、娘、姉妹等は、戦争繼續中、看護婦又は使役婦として召集し、最も砲火に接近したる野戦病院に勤務せしむべし。』

 これは確かに名案だが、各國をして此の法律案を採用せしめるためには、も一つホルム大將に、『戦争を絶滅させること受合の法律を採用させること受合の法律案』を起草して貰はねばならぬ。                                         ――如是閑――




by bashomeeting | 2014-08-15 10:45 | Comments(0)

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