湯呑みの素十句◆家持のゆかりのいで湯薄月夜 素十
2014年 09月 12日
割りふられた部屋に落ち着き、仲居さんが入れてくれたお茶を飲もうとして気が付いた。湯呑みに「家持のゆかりのいで湯薄月夜 素十」と高野素十の句を刷り込んで、高台に「有田/順天」とある。フロントに電話をかけると、売り物ではないがと言いつつ、450円でわけてくれた。
フロントに向かって左の壁に掛かる額装を読むと「家持のゆかりのいで湯薄月夜 素十/この句昭和廿五年高野及川/両博士が千歳舘に御滞在の(折)の句也/短冊焼失して無し/苦行林かく」とある。「及川」とは素十とともに新潟医科大学に奉職した及川周(まこと、俳号仙石)であろう。「千歳館」はこの宿の元の名前で、三年ほど前に建て替えて「ひなの宿 ちとせ」としたらしい。若女将によれば、「短冊焼失」の火災は昭和二十九年のことで、「苦行林」とは地元の俳人だという。
句はこの地に大伴家持がこの地に隠れ住んだという伝説によるようだ。家持は六十歳を過ぎて陸奥に赴任していたように思うが、越後に隠れたという話は初めて知った。地元の女との間に設けた娘が実の母を慕って飛び込んだという秘話「鏡が池伝説」が残っているという。
なお、この句は宿に大事にされて、和紙のランチョンマットにも刷り出してあった。なお、帰宅して文庫版『素十全句集』(永田書房)を見たが、この句は採られていない。
美人林とか農舞台とか、安吾記念館になっている大棟山美術博物館のことなど、書き留めておきたいことは多いが、いまは時間がない。