つまり、句を詠むとは〈言葉で現実を美しく切りとること〉なのです。そのためには〈自分という存在を受け入れるこころ〉を養うことが不可欠です。〈私という現実を認めてあげること〉なのです。私たちは毎日ささやかな喜怒哀楽を繰り返して暮らしていますが、自分や周囲に対して不平不満を抱いているうちは〈美しい現実〉や〈魅力ある自分〉が現前することはないでしょう。兼題の金魚や螢袋を凝視して、眼前にない場合は記憶の糸を手繰り寄せて、〈金魚の金魚らしさ〉〈螢袋の螢袋らしさ〉を言葉に紡いでみてはいかがでしょうか。それができれば、作品そのものがUターンして自分の暮らしを美しく彩ってくれるはずです。
身を隠す術なき金魚掬はるる 岡本美恵子
隣りあふ螢袋をふたつもぐ 海紅
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