この人の一句◆寺澤佐和子句集『卒業』ふらんす堂刊
2017年 11月 28日
鶯や行き先知らぬバスに乗る
偽物の風なまぐさき扇風機
花疲れまづは指輪を外しをり
秋澄むやサンバの腰のよく肥えて
ゆつくりとひらくお茶の葉女正月
小さき刃のごと公魚の冷たさよ
青年の日焼スーツに収まらず
稲架けておほきく散らす陽の匂ひ
冬の日や目鼻ちひさきマリア像
母の忌ややはらかく踏む敷松葉
冬萌や雀相手の尼のこゑ
今日よりは臨月に入る良夜かな
寝返りの背を追ひかけて天瓜粉
春嵐喧嘩は妹泣かすまで
子を叱りつつ栗の実を甘く煮る
先生にそつと耳打ち卒園す
学芸会の台詞二言秋日和
▶▶寺澤佐和子句集『卒業』。作者は東京在住。結婚して熊本に住んだことがきっかけとなり、首藤基澄に俳句を学び、「未来図」に入会して同人。平成20年に未来図新人賞。海紅とは同窓の縁で本書を贈られた。帯に自選15句を示すが、上記の海紅推薦句と重なるものは「今日よりは臨月に入る良夜かな」の一句であった。選句とはまことに難しい。俳人協会会員。ふらんす堂、平成29年9月刊。
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