姿情を求めて16◆退職をめぐって
2019年 03月 29日
高等学校を卒業する前後から、入学式や卒業式、歓迎会や送別会というたぐいが苦手になった。ひとつの号令で、何百人、何千人が立ったり座ったり、唄ったりする時空を異様に思うようになった。ましてや、セレモニーの中心に据えられるのは恥ずかしくて、やりきれなくなった。
受講者のなかに、俳諧(俳句・連句)を暮らしの杖にしているSさんがいて、ボクの句集の中に〈連句で付句にしたい句がたくさんあって、記念に遊んでみました〉といって、次のような三つ物二種を贈ってくれた。
前置きすれば、「春雷に」の脇句「足湯してゐる女九人」は拙句「足湯して女九人春浅し」を短句に、第三の「藤の香を風立ちてより追いかけて」は拙句「風立ちてより藤の香は風を追ひ」を「テ」留めに仕立て直したものである。また、「ものの芽の」の第三「古扇にもの言はぬこと決めてゐて」は拙句「もの言はぬことに決めたる古扇」を「テ」留めに仕立て直したものである。こんな遊びは誰に気兼ねもなくて楽しそうである。
ちなみに、『九十九句』はまだたくさん残っている。
お祝い 三つ物
春雷に
春雷に明るくなりしベンチかな 海紅
足湯してゐる女九人 同
藤の香を風立ちてより追いかけて 同
ものの芽の
ものの芽の風にとかれて明るしや 海紅
「あずさ二号」へ急ぐ花時 昭子
古扇にもの言はぬこと決めてゐて 海紅