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姿情を求めて16◆退職をめぐって

 3月31日を以て退職する。教職から解放される。
 高等学校を卒業する前後から、入学式や卒業式、歓迎会や送別会というたぐいが苦手になった。ひとつの号令で、何百人、何千人が立ったり座ったり、唄ったりする時空を異様に思うようになった。ましてや、セレモニーの中心に据えられるのは恥ずかしくて、やりきれなくなった。
 しかし、組織のなかで生きてきた以上、こうした質を理由に礼儀を欠いてはいけない。そう諭す人もいて、挨拶を7回こなし、花束を3回もらった。別に大学院にゆかりの先輩後輩が集って文学散歩を兼ねた送別会があり、さらに30年以上続けた古典講読の会も閉じた。また、芭蕉会議が雪残る銀山温泉で1泊吟行をもてなしてくれた。
 旧臘、こうした事態を避けられないとみてN氏にすがり、『九十九句』という小さな句集を編んで、300部刷った。ささやかなお礼のつもりである。松尾芭蕉を講じている朝日カルチャーセンター(新宿)にも運んで、〈300人も友だちはいないので〉といって、聴講してくれている人々にも差し上げた。
 受講者のなかに、俳諧(俳句・連句)を暮らしの杖にしているSさんがいて、ボクの句集の中に〈連句で付句にしたい句がたくさんあって、記念に遊んでみました〉といって、次のような三つ物二種を贈ってくれた。
 前置きすれば、「春雷に」の脇句「足湯してゐる女九人」は拙句「足湯して女九人春浅し」を短句に、第三の「藤の香を風立ちてより追いかけて」は拙句「風立ちてより藤の香は風を追ひ」を「テ」留めに仕立て直したものである。また、「ものの芽の」の第三「古扇にもの言はぬこと決めてゐて」は拙句「もの言はぬことに決めたる古扇」を「テ」留めに仕立て直したものである。こんな遊びは誰に気兼ねもなくて楽しそうである。
 ちなみに、『九十九句』はまだたくさん残っている。

  お祝い 三つ物
   春雷に
春雷に明るくなりしベンチかな   海紅
足湯してゐる女九人        同
藤の香を風立ちてより追いかけて  同

   ものの芽の
ものの芽の風にとかれて明るしや  海紅
「あずさ二号」へ急ぐ花時     昭子
古扇にもの言はぬこと決めてゐて  海紅


by bashomeeting | 2019-03-29 18:25 | Comments(0)

芭蕉会議の谷地海紅(本名は快一)のブログです。但し思索のみちすじを求めるために書き綴られるものであり、必ずしも事実の記録や公表を目的としたものではありません。


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