教職から解放されて来し方を振り返る日々に、ほつほつと久闊を叙する機会に恵まれるのは嬉しい。新潟の畏友安田畝風氏から『畑打って俳諧国を拓くべし―佐藤念腹評伝』を恵与された。俳誌『雪』(新潟市)の現選者である蒲原ひろし(本名、宏)先生の大著である。無音に打ち過ぎている櫻井浩治先生(新潟大学名誉教授、俳号塚田采花)が帯を書いている。まずは、簡にして要を得たその全文を紹介する。「異色のブラジル俳句史」「大正・昭和新潟県俳句史資料」と銘打つが、ほぼ近代俳句史の名を冠してよい内容である。
*******以下、帯の全文*******
昭和の初期にブラジルに開拓農民として移住し、師高濱虚子の期待に答え、日本人移民の村々を廻り六千人余の門人を育て、日本の俳句を根付かせた巨匠。
在ブラジルの日本人移民社会結束の核として俳誌「木蔭」を創刊し日本人の文化的水準の高さを証明し、高い社会的地位確保の突破口を開いた。「サトオ通り」の町名を残す。
〝ブラジルの虚子〟と称された新潟県阿賀野市(旧笹神村笹岡)出身の一移民俳人の壮烈な生涯を追った力作。念腹氏は俳誌「木蔭」主宰。俳誌「ホトトギズ」同人。俳誌「まはぎ」誌友。
中田みづほ・高野素十・濱口今夜「ホトトギス」三羽鴉の新潟医科大学俳人教授と刎頸の親友であった。
▶▶蒲原宏著『畑打って俳諧国を拓くべし―佐藤念腹評伝―』。自序。長谷川和宏(俳号、隼人)跋。口絵に念腹句の2枚の短冊と念腹の写真。帯に櫻井浩治(新潟大学名誉教授、俳号塚田采花)が紹介の筆をとる。書名の「畑打って俳諧国を拓くべし」は念腹に送った虚子の句。総ページ数702。定価(本体3,000円+税)。大創パブリッシング発行、令和2年(2020)6月刊。