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懐疑という心

「国際俳句シンポジウム『不易流行』」の記録集を輪読するにあたり、谷地はまず不易流行とは幽霊のような言葉であることを前置きした。理念としての「不易」と、情況としての「流行」という言葉は、古来それぞれ独立して存在した。その二つをひとつの概念として用いたのは、おそらく芭蕉が最初であろう。だが、芭蕉自身が書き記した資料は堀切発言にある通り、「只今天地俳諧にして万代不易」(元禄3・12・23付去来宛書簡)しかなく、そのほかは聞書か、その聞書を敷衍したものであるからだ。しかもその聞書は「千歳不易」「天地固有の俳諧」「天地流行の俳諧」「風俗流行の俳諧」「一時流行」「世上の流行」等、その表現が微妙に異なっている。不易流行を論じる私どもはまずこれらの資料と向き合い、そのつじつまの合わない点を考え抜かねばならない。この愚直ともみえる手続きを省いて納得すれば、事の次第にうとい幽霊の末裔になりさがるしかない。憶えることに性急である必要はない。懐疑という心を忘れないことだ。
by bashomeeting | 2006-09-28 11:01 | Comments(0)

芭蕉会議、谷地海紅のブログです。但し思索のみちすじを求めるために書き綴られるものであり、必ずしも事実の記録や公表を目的としたものではありません。


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