名月の夜にJ君が亡くなって、ふた七日が過ぎた。三十九歳であった。東京下町の人の好さとは、こういう優しさをいうかと思える男で、何年御無沙汰しても、再会すれば私のゼミにいたころのままの彼であった。好きな女がいると言いながら、何年も一緒にならないので心配したが、ついには一途を通して結ばれ、細君はいま二人目の子を宿していると聞いた。去る五月の芭蕉会議発足の集いに誘ったところ、私のわがままを聞いて、細君と息子さんを同伴してくれた。それが最後であった。無理に誘っておいてよかった。通夜の月は美しく、彼の友人らと思い出の街にくりだし、みんなでたくさん泣いた。
月の友月の仏となり給へ 海紅