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いちど連句を思い出してみる―その魅力を未来に創造するために―

 昭和五十九年八月十日、中央大学湯河原寮で、『連句辞典』(東京堂出版)の編集委員有志が歌仙を巻いた。実作を共に体験し、辞典の編集に生かそうとするもので、慰労と親睦を兼ねた合宿であった。先にあえて連句を壊した例をあげたので、ここでは姿の整ったテキストの例に、その一巻を掲出しておこう。引用は『季刊 連句』第七号(昭和59.12.1)による。

  山荘の湯        東 明雅 捌
山荘の湯をまづ浴びて残暑尚     健 治
 月を育むごとき夕風          海 紅
蜻蜒舞ひ遊ぶ子供の影もなし     文 人
 浜より帰る舟人の声          真 彦
焼鳥につぎし熱燗舌を焼き       徒 司
 重ね着の上頬被りして         明 雅
減反の年の瀬きびし出稼ぎに        治
 上野の駅の町騒の朝            彦
先生のネクタイの色気になると       同
 どこかしほらしツッパリの恋        治
てらてらと手垢に光る百度石        司
 廃庵一つ残る山里              紅
夏の月水疱瘡をわづらひぬ         人
 目が明いてみる辛き世の中        同
リャンピンをつもればリーチ即かけて    治
 離れの人が妙に気になる          彦
下駄の音生まれて花の雨に消え      紅
 淀んだ沼に泣きべその蝌蚪        司
爪切りて深爪になる遅日なり         彦
 浮世之介に書きし誓文           治
逆さまに吊されたるは妻か何        彦
 狸見つけし土肥の温泉           司
落選に父祖代々の家を売り         紅
 帰るあてなき留学の画家          同
「ひまわり」の第三号は宇宙へ        治
 眼を楽しませ肌をやく午后         司
ジャズダンス河童の如く跳びはねる    彦
 襟巻トカゲ遠き故郷             紅
東京の砂漠に赤き月かかり         司
 屋上に佇ち鳩を吹く夕            人
冬物を出す算段に秋たけぬ         司
 渋茶を汲んで労いやし合ひ        人
而して愛用の杖ぼろぼろに         紅
 神に祈りし辞書の出版           彦
大学の才子集めて花の宴          雅
 毛深き胸を春の蚊が刺す       執 筆

昭和五十九年八月十日    連衆 大畑健治
於 箱根中大湯河原寮         谷地海紅
                       二村文人
                       宮脇真彦
                       杉内徒司
by bashomeeting | 2008-01-17 05:20 | Comments(0)

芭蕉会議、谷地海紅のブログです。但し思索のみちすじを求めるために書き綴られるものであり、必ずしも事実の記録や公表を目的としたものではありません。


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