江戸をのぞく◆遠藤寛子『算法少女』
2008年 02月 07日
本書は千葉あきという算法にすぐれた少女が主人公のジュニア歴史小説で、少女の父親の親しい友人として素外が登場する。以下はその読後のメモである。
◆120頁
素外も句集を出版するので、そうした事情をしらないわけではなかった。
「このあいだも、算書が一冊出たけどな。百冊ちょっと刷って、三両近うかかったそうや」
一両で、だいたいひとり一年間の飯米が買えたから、これはなかなかの大金であった。
「それでな。その算書に問題を発表した仲間が、一題について、二朱(一朱は一両の十六分の一)か三朱ずつ、金をだしあったそうや」
◆126頁
けいが線香花火に火をつけた。煙硝(火薬)のけむりをすうと、この冬はかぜをひかないといういいつたえに、子どもたちは、いそいでうちわをばたばたつかう。
◆141頁
「江戸におおいもの―伊勢屋、稲荷に、犬のくそ」
◆251頁
いま、写楽という浮世絵師の絵がとても評判になっています。芝居の役者の絵なのですが、これまでのように、ただのきれいごとでなくて、役者の表情をずばりとえがいて、こわいぐらいその特徴をつかんでいます。それで、かかれた人の中には、いやがる人もありますが、それだけすぐれた絵なのだとおもいます。
ところが、この人、いったいほんとはだれなのか、だれもはっきりしたことはしらないのですよ。あの人だ、いやこの人にちがいない、とさまざまうわさが立っているなかに、あなたもごぞんじの人の名がはいっています。だれでしょうか―ほら、あの俳人の、谷素外さんなのです。
いつもたのしそうに、世のなかを愉快にくらしているあのかたが写楽だなんて、おかしいようですが、わたしは案外そうかもしれないとおもっています。あなたが江戸にいられたころ、いろいろなできごとがありましたが、そんなとき、ふとかんがえこんでいる素外さんをしっていますし、「殿さまなんて、案外不自由なものさ。町かたのわたしらは、いっしょうけんめいやろうとおもえば、いろいろなことができるもんだよ」とおっしゃっていたこともおぼえていますので。