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最近和洋詩歌考現学3 ―教材◆「私」はどこにいるのか

 講義のはじめに、話しておきたいことがある。それは、表現すべき「私」はどこにいるのかを考えてほしいということ。自分で「考えること」「思うこと」を大切にしてほしいということだ。
 ドラマにしろニュースにしろ、TVに映し出される映像を見ていて、これは私の目が見ているわけではないと思って、カメラマンの目がみているのだと思って、電源を切ってしまうことがある。切ることはしないまでも、そういう神経を忘れたくない。
 そんなふうに暮らしていると、私と同じように生きているひとりに出逢った。昭和57年のことゆえ、今は昔と言うべきか。直接お目にかかったわけではない。正確にはその人の詩に出逢ったのだ。
 作者の名は井上繁利さん、当時十三歳。詩集の名は『新選対訳「どろんこのうた」』(北星堂書店 昭和57・1)。私は編者の郡山直先生と、その御友人本田徹夫先生とに御縁があって、一冊いただいたのである。
 宝石箱のようなこの詩集から一篇を紹介し、ものの見方を変える教材としたい。なお、その簡明さに驚嘆した郡山先生の英訳も書きとどめておこう。

   かがみ    井上繁利

ぼくは かがみを みたらいけん
ぼくは かがみが こわいけん
みんのです
ぼくのかおが かがみに うつったら
ふたりが おるけん
こわいです


  The Mirror 郡山直訳

I don't look into the mirror.
I am afraid of it.
So I don't look into it.
When my face is reflected.
In the mirror, there are two me's,
So Iam afraid of it.
Commented by 三木喜美 at 2008-03-06 10:37 x
13歳の少年の心の繊細さに驚くと共に、抱きしめてあげたい心境に捉われる。そして何十年か前の自分を思い出す。いわゆる「良い子」と言われ続けられた私はいつも恐れ慄いていた。この少年のように違う自分の存在を知っていたから・・・。それは中学の頃「人間失格」を読みこれは私のことだと確信に至りますます暗くなり悩んだ。それから幾歳月今だに、寂しがりやな自分、自信のない自分、孤独な自分などマイナス要因が多い自分が何人もいて、鏡を見るのは嫌いだ。ただ言えるのはひたすらそんな駄目な自分を励ましながら懸命に生きてきたことである。この少年は今頃30代と思うが、きっとすばらしい詩心を備えた詩人に成長したのではないかと想像する。私の3歳の孫は三面鏡を覗いて無邪気に喜んでいる。この無邪気さは何時まで続くのかなあと、ふと思った。
Commented by 山房の海紅 at 2008-03-07 17:34 x
 論評感謝。この井上君の詩は受講生に新鮮な刺激を与えたらしく、大学生の眼が輝くのを初めて見たような気がしたものです。このあと、詩から短歌へ、それから俳句へと次第に短い詩へとトレーニングして半年の講義を終えました。当時のボクは、詩型の長さに関わりなく、どんな詩型にも共通するものを伝えたかったようです。今は懐かしい過去です。
by bashomeeting | 2008-02-24 09:51 | Comments(2)

芭蕉会議、谷地海紅のブログです。但し思索のみちすじを求めるために書き綴られるものであり、必ずしも事実の記録や公表を目的としたものではありません。


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