最近和洋詩歌考現学3 ―教材◆「私」はどこにいるのか
2008年 02月 24日
ドラマにしろニュースにしろ、TVに映し出される映像を見ていて、これは私の目が見ているわけではないと思って、カメラマンの目がみているのだと思って、電源を切ってしまうことがある。切ることはしないまでも、そういう神経を忘れたくない。
そんなふうに暮らしていると、私と同じように生きているひとりに出逢った。昭和57年のことゆえ、今は昔と言うべきか。直接お目にかかったわけではない。正確にはその人の詩に出逢ったのだ。
作者の名は井上繁利さん、当時十三歳。詩集の名は『新選対訳「どろんこのうた」』(北星堂書店 昭和57・1)。私は編者の郡山直先生と、その御友人本田徹夫先生とに御縁があって、一冊いただいたのである。
宝石箱のようなこの詩集から一篇を紹介し、ものの見方を変える教材としたい。なお、その簡明さに驚嘆した郡山先生の英訳も書きとどめておこう。
かがみ 井上繁利
ぼくは かがみを みたらいけん
ぼくは かがみが こわいけん
みんのです
ぼくのかおが かがみに うつったら
ふたりが おるけん
こわいです
The Mirror 郡山直訳
I don't look into the mirror.
I am afraid of it.
So I don't look into it.
When my face is reflected.
In the mirror, there are two me's,
So Iam afraid of it.
