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脇役が好き

 主役をもらってしまった。ボクは高等学校教師時代に文芸部というクラブ活動の顧問をしていて、その縁につながる人々が、ボクの華甲を口実に小宴を催して、古い仲間と久闊を叙するというので、一も二もなく賛同した。誰よりボクが彼らに会いたかったのだろう。
 ボクが表向き守備範囲にしている連歌俳諧とか俳句という分野は筑波の道というので、その筑波山の山懐に宿をとるという趣向もうれしい。露天風呂に百骸を沈めて鶯を聞き、立ち上がっては、山裾一面に水が引かれた広大な田を眺める。父親になった彼らが、その子供たちを風呂に入れる景色にしみじみとしながら、来し方、行く末に思いをめぐらせた。あらたまった挨拶も、かしこまった言葉も出てこない。彼らとボクには、それが許されるだけの時間がすでに流れていると思っている。
 だから、宴の上座に座らされ、一通りの儀式が展開するあいだは緊張した。歯医者で治療を待つ気分に似ていた。教師面をして、七転八倒していた現役時代が恥ずかしく、切なく思い出された。学び続けているつもりだが、今ますますボクは愚かである。
 こんな主役は似合わない。儀式が終わるのを待って、彼らが引き連れている小学生の司会に呼び出されるままに、カラオケで「神田川」を唄った。選曲は司会の子の父親であった。彼はこんな甘酸っぱい唄をうたってきたボクの証人だから拒めない。白髪頭や笑い皺を忘れておどけた。
 脇役が好きである。サラリーマンのころ、一度だけディスコなる空間に連れて行かれたことがあるが踊ることはなかったし、こどものころの盆踊りの輪にも入れた記憶がほとんどなく、祭り袢纏を着せられて背中を押されても逃げ出して、お神輿の列に加ることはなかった。その昔、芝居を書いたことがあるが、演じることはなく、公演の進む様子を、舞台の袖から震えながら見ていた自分が好きである。華甲を祝ってくれた彼らを主役にして、その生き生きとした高校生時代を、少し離れて見ていた自分が好きである。
by bashomeeting | 2008-05-19 11:31 | Comments(0)

芭蕉会議、谷地海紅のブログです。但し思索のみちすじを求めるために書き綴られるものであり、必ずしも事実の記録や公表を目的としたものではありません。


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