わがふるさとの作家
2008年 06月 10日
五月と六月が入れ替わるころに、母の三回忌で郷里へゆく。千歳で飛行機を降りて特急電車に乗り、滝川で一輌の富良野線に乗り換えて郷里へ。車輌の隅の座席越しに何度か首を伸ばして、こちらを見る人がいる。会ったことがあるような、ないような不思議な気持ちのまま郷里に着く。友人の店で夕食をとっていると、件の女性が入ってくる。昨夏の墓参の折、俳句連盟に頼まれて講演をしたが、その際に中心となって活躍されていた良枝さんであった。それと気づかなかったことをお詫びすると、良枝さんは見慣れぬ電車の客をボクとわかったらしく、連盟の会長である大硯先生にすでに電話連絡をしたとのこと。まもなく先生が隣町から駆けつけて、四方山話に時を忘れることができた。
別れに芦別俳句連盟創立五十周年記念誌『蘆』をいただく。帰途につくボクのよい旅の友となった。その中から、心に残る句を摘記して記憶にとどめる。とりえず女性作家篇。
高原の丘へ緑の風上る 良枝
秋風や海女小屋荒く釘うたれ 良枝
作小屋の屋根に石置く暮の秋 良枝
草笛にきりりと光る父の星 良枝
威を張れる雄鳥もまた羽抜鳥 良枝
米研ぎし水地に還す終戦日 良枝
鴈行くや母に返せぬ借りいくつ 良枝
じやが薯のやうな子で良し肩車 良枝
唇にふるることなし雛の笛 良枝
貨車過ぎて花菜あかりに鉄匂ふ 良枝
病む人に選ぶ言葉やさくらんぼ きよ
春を待つ王様クレヨン十二色 きよ
短日をまつすぐ落す砂時計 きよ
鳳仙花弾けて女盛り過ぐ きよ
室咲へ小さき一灯消さずをく きよ
ポケットに握るものなき夜寒かな きよ
利子で買ふ菓子一袋山笑ふ きよ
妻の肩ばかり持つ子やビール注ぐ きよ
ガスの炎の点いて今年の始まりぬ 澄子
春寒や願ひの絵馬のもつれあふ 澄子
海開き祝詞の終り待ちきれず 澄子
ぎしぎしと並べ白菜漬けにけり 澄子
立秋やぷるんと朝の目玉焼 澄子
笑はせて終る法話や小春空 俊子
春風や産着の中の大欠伸 俊子
灯さねば霧におぼるる通過駅 光子
亡き夫の名刺一枚秋の暮 光子
神鈴を大きく振りて年新た 一枝
枕辺にそつときてゐる初明り 一枝
雪舟の絵画の中へ冬の旅 みつ子
色褪せし洗濯ばさみ冬に入る みつ子
夏帽に手を添へゆきて女らし 冨美子
白米をほこほこ食す終戦日 冨美子
枝豆の運ばれてくる通夜の席 栄子
菊の香へ追善の膝正しけり 貞子
戦なき空を選びて鳥帰る まさ子
春耕やリストラの子が農を継ぎ よね子