最近和洋詩歌考現学5 ―教材◆光は闇をまとう
2008年 07月 05日
さて、空欄A・B・C・Dにはそれぞれ異なる漢字二文字の熟語が入ります。それを補充する愉しみを味わいながら、自分の光のありかについて考えてみてください。
〔 A 〕
ゆうべからおなかが痛くて
医者へ行くから今日は休むと電話をかけた
もちろんおなかは痛くないし医者にも行かない
わたしは〔 B 〕だが〔 B 〕だってときには
〔 A 〕なんかに行きたくない日があるんだよ
だれも私を(ぼくを/おれを)わかってくれない?
あたりまえじゃないか
ひとの内部ってのは やわらかい 壊れやすい 暗闇だから
無闇にずかずか踏み込んではいけない
それが礼儀なんだよ
それくらいのこともわからないぼんくらに
(きみの気持ちはよくわかるけどね)
そんなことまでいうんだわたしは
ああなんだかほんとうにおなかが痛んできたよ
だんだんずるやすみではなくなってきたみたいだけど
とにかく今日は行かないよ
ぜったいに行かない〔 C 〕拒否だ
そう決めたんだわたしはって
こういうところは子供のときと同じだなあ
おさなごころって
こんなところに残っていたんだ
あとで女房に話してやろう
女房のおさなごころはなへんにあるか 臀部か
と考えていると娘の部屋で物音がした
とうに〔 A 〕へ行っていなければいけない時間なのに
どうしたのだろう
なになに ゆうべ遅くまで〔 D 〕したので起きられなかった?
今日は行きたくないから電話をかけて?
やだなあ
やだよ
娘と二人で散歩に出かけた
ちょっと近所のつもりが電車に乗って
郊外の川原に来た
変な気持ちだがいい気持ち
ぼんやりしてたら娘が言った
おとうさん?
なあに?
あしたは〔 A 〕へ行く?
どうしよう
行けば?
うん
― 辻征夫詩集『船出』より ―