オニヤンマのゆくえ
2008年 07月 25日
洗濯ものを干す手をとめて、家人が『おでかけずかん』(チャイルド社)を持ってやってきた。それは甲斐正人・須田孫七監修『チャイルドブック・ジュニア』(平成十二年四月号)の特別付録で、幼稚園の先生をしている姪が教材の余りものだからといって、かつてわが娘たちにくれたものだ。そのころの彼女たちは、外出のたびに、この文庫本ほどの図鑑を持ち歩いていた。日本で一番大きなトンボという説明がある。一番でもビリでもいいが、苦しんでいる様子は見かねる。それで助けることにした。オニグモ系と思われる蜘蛛の巣を払って、もがきのせいで傷みかけた一枚の翅を丁寧に整えてやる。そして、丸くふくらんでいるドウダンツツジに霧吹きをして、その上に横たえた。しかし、四枚の翅を不釣り合いに動かしている姿は、自力で飛び立つことがしばらく無理のように見えた。仕事に戻って十五分ほど、ふと思い出して庭に出ると、オニヤンマの姿がない。地面の草陰を丁寧に捜したが、落ちた気配はなかった。自力で飛び立ったか、それとも小鳥の餌食となったのであろうか。むろん飛び立っていてくれたほうがよいのだが、何かに食われてしまったとしても悔やむまい。わたくしども人間を含めて、自然はひたむきな食物連鎖でつながっているにちがいないのだから。
少年の顔に戻りて夕端居 海紅