地方出張から戻ったら、家人が「お買い物」というNHKドラマを見ていたので、つられて最後まで見た。若いころからカメラ趣味のある会津の老人が、東京渋谷のカメラ屋から届いた中古品セールのダイレクトメールに心が動いて、思案の末に老妻を伴って渋谷行きを断行、なけなしの貯金と宿泊代まではたいて、ついにあこがれのコンタックスを購入し、やむなく一人暮らしの孫娘を頼って、その部屋に泊まって帰宅。その間の喜劇悲劇をコンタックスに残して死んでゆくという話。鋳型にはめてできたようなドラマで、新しみはなかったが、少し泣いた。こんなお仕着せで涙を流すのは年齢のせいか、上手な役者のおかげであろう。どんな作者がこんな既製服のようなドラマを書くのかと新聞を調べたら前田司郎という人であった。芝居も書く人のようだから、鋳型によらない自信作を舞台で見たいものだと思った。
墓のべの草を焼きしも供養かな 高野素十