胎中千枝子さんから、昨年十月に刊行された『俳句でめぐる北信濃 飯山』(近代文芸社)をいただいた。彼女にはすでに句集『春の色』があり、このたびの句文集の姉妹篇と思われる『飯山を俳句に包む』という一書もあるようだ。飯山への思い入れは、そこが父君の郷里であることによる。帯にある「飯山をこよなく愛する著者が、12のエリアを厳選、俳句に解説を交えてその魅力を紹介する 」という一文が本書の性格を説き尽くしている。すなわち、飯山市全図と部分地図を示して、①玉巵苑(ぎよくしえん) ②寺めぐり遊歩道 ③正受庵 ④雁木通り ⑤飯山城址 ⑥菜の花公園・千曲川 ⑦瑞穂・棚田 ⑧小菅神社・阿弥陀堂 ⑨北竜湖 ⑩なべくら高原 ⑪富倉 ⑫斑尾高原、の十二章をもうけ、飯山で詠んだ句と、その地の解説を加えたもの。文字通り「歩きながら手軽に読める冊子」(はじめに)となっている。俳句を何らかの方針で並べるだけの句集が多い中に、こんなスタイルのものがあってよい。
春泥の納屋までつづく桟俵
麦秋の真中通る農耕馬
人古りて鐘楼古りて蝉時雨
寝ころべば土筆の群れの寄りてくる
虹の根にお花畑の見えてきし
啄木鳥の啄き造るや山日和
湿原をめぐり青葉をくぐりけり
私の心をとらえた七句をあげてみた。飯山の個別性は文章にこめて、飯山を通して詠みながら、飯山を超える普遍性を描ききったものによい句があると思った。