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死んで生きる

 「死んで生きる」ということばを聞いたことがある。人は死んだ後ではじめて、この世に残った人々の心に生きはじめるというのだ。死を境にして、その人の人生はようやく私たちの心に棲みつくという。ずっとむかし、詩を書いていたころに、たくさん読んだリルケの一篇にこんなものがあった。

   或る四月の中から     リルケ/片山敏彦訳

  ふたたび森が薫る。
  われらの肩に重かつた空を
  雲雀たちが引き上げながら漂ひ昇る。
  枝間に見える晝の光は まだ冬枯の時のままだと思つてゐるうちに
  毎日の午後を雨が降り 時の歩みが緩やかだ。
  そんな午後が幾日か續いたあとで
  こんじきの光にまみれた
  目立つてさわやかな時間が來る。
  こんな新しい時間から遁げさらうとでもするやうに
  遠方の家々の前面の
  どれもこれも傷ついてゐる窗々が
  はばたく
  それからやがてひつそりとする。降る雨さえも音をひそめて
  石の、静かに暮れゆく輝きを濡らして過ぎる。
  ありとあらゆるものの音が 全くひそみ入る、
  樹々の小枝に輝いてゐるたくさんの蕾の中へ。


〔リルケ〕Rainer Maria Rilke、。1875~1926 五十一歳。チェコ(プラハ)の人。ドイツの詩人。貴族の家柄に生まれたが、幼年学校を中退し、ロシアやイタリーを遍歴し、パリでは彫刻家ロダンの秘書になった。結婚したが、貴族の家に客寓することが多く、ほとんど孤独な生涯を過ごす。『新詩集』『ドゥイノの悲歌』『オルフォイスに捧げるソネット』などで二十世紀最高の詩人と評され、小説『マルテの手記』は青年必読の書といわれた。
by bashomeeting | 2009-04-15 19:33 | Comments(0)

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