死んで生きる
2009年 04月 15日
或る四月の中から リルケ/片山敏彦訳
ふたたび森が薫る。
われらの肩に重かつた空を
雲雀たちが引き上げながら漂ひ昇る。
枝間に見える晝の光は まだ冬枯の時のままだと思つてゐるうちに
毎日の午後を雨が降り 時の歩みが緩やかだ。
そんな午後が幾日か續いたあとで
こんじきの光にまみれた
目立つてさわやかな時間が來る。
こんな新しい時間から遁げさらうとでもするやうに
遠方の家々の前面の
どれもこれも傷ついてゐる窗々が
はばたく
それからやがてひつそりとする。降る雨さえも音をひそめて
石の、静かに暮れゆく輝きを濡らして過ぎる。
ありとあらゆるものの音が 全くひそみ入る、
樹々の小枝に輝いてゐるたくさんの蕾の中へ。
〔リルケ〕Rainer Maria Rilke、。1875~1926 五十一歳。チェコ(プラハ)の人。ドイツの詩人。貴族の家柄に生まれたが、幼年学校を中退し、ロシアやイタリーを遍歴し、パリでは彫刻家ロダンの秘書になった。結婚したが、貴族の家に客寓することが多く、ほとんど孤独な生涯を過ごす。『新詩集』『ドゥイノの悲歌』『オルフォイスに捧げるソネット』などで二十世紀最高の詩人と評され、小説『マルテの手記』は青年必読の書といわれた。