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その菓子を八橋といひけるは……

 新しくゼミが始まる四月、最初の仕事はクラス委員を決めることである。みずから手を挙げてくれるクラスもあるが、こちらが無駄口をたたいて教室の空気をなごませ、学生の警戒心を解いたうえで、ようやく決まる場合も多い。その無駄口に、たとえば〈クラス委員を引き受けても、なんの得もないが、研究室を訪ねてくれた際に、駄菓子のひとつふたつもらえることはある〉と言ったりして笑いをとる。
 先日、クラスの演習テーマ一覧を届けてくれた委員二人に、京土産の八ツ橋をあげて、尋ねた。
 … この菓子を八ツ橋という由来はなんだろう。
 しばらくして、ひとりが答える。
 … 『伊勢物語』東下りに〈…三河の国、八橋といふところにいたりぬ。そこを八橋といひけるは、水ゆく河の蜘手なれば、橋を八つ渡せるによりてなむ、八橋といひける〉とある、それにちなんだ名かな。
 … なんで、そう思う。
 … お菓子の反り具合が橋に似ているじゃない。
 … ナルホド。
 そこで、八ツ橋という京菓子の名は近世初期に箏曲の基礎を作り上げた八橋検校という音楽家を偲んで付けられた名で、菓子の反りは箏(そう)をイメージしたものだろうと説明してやる。蛇足で、箏は俗に琴の字を宛てて「こと」と呼ぶが、「きん」と呼べば別の楽器になることも。しかし、橋の反りを連想するのも悪くないなと思った。
 余談ながら、蕪村に次のような句がある。さて、「こと」か「きん」か。

  しぐるゝや鼠のわたる琴の上    蕪村
  しぐれ松ふりて鼠の通ふ琴の上  同
  乾鮭や琴に斧うつひゞき有      同
  御僧に琴まゐらせよ月の村     同
  桐火桶無絃の琴の撫ごゝろ     同
  琴心もありやと撫る桐火桶      同
by bashomeeting | 2009-05-08 10:17 | Comments(0)

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