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ほととぎす

 啼きわたるホトトギスを毎晩聞きながら仕事をしている。
 この哀しげな声をはじめて聞いたのは高尾の峠である。紅花先生のもとに春雪会という小さな句会をつくって、年に何度か泊まりがけで吟行にでかけた。高尾にはその仲間の一人が住んでいた。句会を通して接する自然はなにもかもが新鮮であった。
 ホトトギスの姿を見たのは山古志村である。これも年に一度の大きな句会で出かけた際のことである。人を恐れるふうはなく、山道の脇の木の枝にとまって啼いていた。伸ばせば手が届きそうであった。『枕草子』の中に忍び込んだような感動をおぼえた。
 東京の暮らしを引き払って、八年ほど稲敷郡に住んだ。初めての専任教師暮らしであった。引き払って棲みついてしまえ、と勧めたのは紅花先生であった。不安な一人暮らしであったが、茨城の俳人がぽつりぽつりと訪ねてくれて、いつしかその人たちの句会に出かけるようになっていた。ボクが高校教師になって赴任したことを、紅花先生からの手紙で知った人たちであった。だから、大学に戻ることになって、その住居を引き払うときは万感胸に迫るものがあった。それを如実に語るすべはたぶん見つからないであろう。

  住み捨つる覚悟ほととぎすを待てる        海 紅
Commented by tuyukusa at 2009-06-07 10:29 x
高尾山とか御岳山などで啼いている鳥の声をきくと妖精の声かと思う時があります。ホトトギスの声はきっと紅花先生の海紅先生へのねぎらいと励ましの声なのでしょう。少し落ち着いた今頃がちょうど淋しさが静かに押し寄せてくる頃であることをひしひしと感じます。お傍でこれからずっと見守って下さることでしょう。それにしても鳥の声を聴きながらお仕事が出来るなんてすばらしいですね。
by bashomeeting | 2009-06-05 03:44 | Comments(1)

芭蕉会議、谷地海紅のブログです。但し思索のみちすじを求めるために書き綴られるものであり、必ずしも事実の記録や公表を目的としたものではありません。


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