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常世へ20―チャイコフスキーの「悲愴」

 先生は病気をするたびに「あとをよろしく…」と言っていたから、そのうちに麻痺して、そのような「あと」はいつまでも来ないような気になっていました。でも昨年の暮れに「アトヲヨロシク」と真摯に言われて、すぐに耳の奥に聞こえてきたのはチャイコフスキーの「悲愴」でした。なぜなら先生はチャイコフスキーが好きで、お若いころは〈私の葬送には「悲愴」を頼むよ〉と言うのが常だったからです。縁起でもないので、そんなときのボクは〈ボクの場合は、古今亭志ん生の出囃子「一丁上がり」でお願いします〉とお道化たりしていた。でも現実には知己が一堂に会するような野辺送りを先生は拒んだ。それは日ごろの先生と矛盾しない。実は若いころにも「悲愴」で送られようなどと本気で考えたことはなかったのでしょう。みずからの生涯を「悲愴」と認識していた人に、ことさらチャイコフスキーは必要ないからです。むろんボクも「一丁上がり」で去ってゆくつもりはありません。
by bashomeeting | 2009-07-01 22:53 | Comments(0)

芭蕉会議、谷地海紅のブログです。但し思索のみちすじを求めるために書き綴られるものであり、必ずしも事実の記録や公表を目的としたものではありません。


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